Kadoさんのブログ

日々のあれこれを綴ります

Sさんからの手紙

Sさんからの手紙

部屋の片づけをしていたら、Sさんからの手紙の束がでてきた。Sさんは友人Mさんの母上で、壮年のMさんは人生を謳歌していた2000年の夏に、事故で亡くなられた。葬儀で知り合ったSさんとは、その後しばらく手紙のやりとりをしていたのだった。

Mさんは以前にはいっていたオーケストラの仲間で、西洋音楽だけではなく、アジアそして日本の音楽にも詳しかった。演奏会プログラムの曲目解説に、詳しくそして人柄のにじみ出る文章をしばしば書かれていた。20年以上いっしょに演奏し、大切な友人となっていた。そのMさんが家族と友人たちと海に遊びにでかけ、そこで溺れて帰らぬ人となったのだ。

母上であるSさんからの手紙を読み返すと、それはオーケストラの演奏会チケットをお送りしたり、録音CDをお送りしたお礼状が多かった。ご自身も音楽に親しんでらしたSさんは、Mさんが亡くなられてからも私たちのオーケストラの演奏会にご家族とよく来てくださった。Mさんの写真を胸に客席で聴いてくださっていたのが文面からわかる。それはなつかしさや親しみよりも、深い悲しみが浮かび上がる文章だった。

当時私は自分の母親を実家から引き取り介護をしていたので、そのこともいろいろ手紙に書いたらしい。そうした私に対してSさんはねぎらいの言葉をかけてくださった。その時期、私は仕事や介護でせわしくしていたので、Sさんのせっかくの言葉も通り一遍の受け止め方しかできなかったような気もする。

その後手紙のやりとりは少なくなり、しばらくしてSさんは亡くなられた。今私が当時のSさんの年齢に近くなり、改めて手紙を読み返してみると、子を亡くした母親の思いがしんしんと伝わってくる。手紙を書くきっかけはその時その時でいろいろだが、結局は息子のMさんを思う気持ちが隅々まで溢れている。今頃は彼岸で二人で微笑んでくれていると考えたい。