Kadoさんのブログ

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O.スリヴィンスキー『戦争語彙集』を読む

O.スリヴィンスキー『戦争語彙集』岩波書店、2023

ウクライナの詩人オスタップ・スリヴィンスキー作、ロバート・キャンベル訳著『戦争語彙集』を読みました。岩波書店から2023年12月22日発売の本です。1978年ウクライナ西部の都市リヴィウに生まれたスリヴィンスキーは、詩人として幅広く活動していました。2022年2月のロシアによる侵攻後、まず軍隊に入ろうと志願したそうです。しかし多くの志願者がいたため入隊はかなわず、戦争被災者を支援する活動を続けていました。その中で出会った人々が語る言葉に耳を傾け記憶し、家に帰ってそれを原稿にまとめ、2022年に"СЛОВНИК ВІЙНИ”(ウクライナ語。英語にすると"Dictionary of War")というタイトルで出版しました。本文には21人の語った77の言葉と物語がまとめられています。すでに何か国語にも翻訳されているそうです。

その英訳をもとに、日本文学研究者ロバート・キャンベルが日本語に翻訳しようと計画しました。翻訳にあたりキャンベルは、2023年3月にスリヴィンスキーと直接オンラインで連絡をとり、6月には実際にウクライナに出向き2週間にわたり取材をしました。その経験を6つのエッセイにまとめて本文の後ろに追加したのです。日本語の本文はウクライナ語のABC順に並べられており、言語間の優劣はない辞書の形態をとっています。本文とエッセイ全体を読み、「言葉」の持つ意味、力、可能性を深く感じることができました。黒い表紙に浮かび上がるピンクの百合の画の由来が、エッセイの最後にでてきました。

この本を読んだきっかけは、12月20日のTOKYO-FMラジオ番組『林檎の樹の下で眠るとき ヴォイス・オブ・ザ・ピープル ~戦争語彙集~』を聞いたからでした。そして作者オスタップ・スリヴィンスキーの名前を目にし、私が半年ほど前にウィキペディアに出した人名であることを思い出しました。彼はパンデミック下に世界中の詩人たちが参加した一連の長詩『月の光がクジラの背中を洗うとき』の作者の一人だったのです。

■戦争語彙集 / オスタップ・スリヴィンスキー作;ロバート・キャンベル訳著

岩波書店、2023年12月
xv, 269p
目次:
旅立ちの前に / ロバート・キャンベル…v
戦争語彙集 / オスタップ・スリヴィンスキー作;ロバート・キャンベル訳…1
戦争のなかの言葉への旅 / ロバート・キャンベル…117

  1. 列車から、プラットフォームに降り立つ:行き交う人々と言葉
  2. 人形劇場の舞台袖で、身をすくめる:言葉の意味が変わるとき
  3. 階段教室で、文学をめぐる話を聞く:断片としての言葉
  4. ブチャの団地で、屋上から見えたもの
  5. シェルターのなか、日々をおくる:とどまる空間で、結び合う人々
  6. あかるい室内で、壁に立てかけられた絵を見る:破壊と花作り

環(たまき)のまわるが如く / ロバート・キャンベル…265
「戦争語彙集」原詩謝辞