Kadoさんのブログ

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『スーフィズムとは何か』を読む

スーフィズムとは何か:イスラーム神秘主義の修行道 / 山本直輝
集英社、2023年
222p (集英社新書
目次:
序章 イスラーム神秘主義とは何か? …13
第1章 学問としてのスーフィズム …27
第2章 師匠と弟子:スーフィズムの学びのネットワーク …37
第3章 西欧とスーフィー:中東を越えるスーフィズムのネットワーク …55
第4章 スーフィズムの修行(1)心の型 …65
第5章 スーフィズムの修行(2)心を練り上げる祈禱 …79
第6章 心の境地(1) …103
第7章 心の境地(2) …117
第8章 修行者の心構え:ナクシュバンディー教団「11の言葉」 …127
第9章 五功の心:神・自然・人をつなぐ修行 …141
第10章 心を味わう:修行者の食卓 …155
第11章 武の心:スーフィーとマーシャル・アーツ …171
第12章 心の詩、心の音色、詩と音楽 …181
第13章 人の心:絶望と希望 …199
あとがき …216
主な参考文献 …218

■メモ

  • スーフィーのサークルは、伝統的なスーフィー教団の形だけではない。特に、トルコのような世俗主義政策によってスーフィーの活動が厳しく監視されていたところでは、公的に活動できないスーフィー導師は、個々人のつながりを維持しながら学びの文化の継承を続けてきた。トルコでは導師が主導する公的でない、私的な学びのネットワークのことを「不可視の大学(görünmeyen üniversite)」と呼ぶ。スーフィズムは、「どこで学んだか」よりも「誰から学んだか」が重要なのである。(p48)
  • 次頁で紹介する『NARUTO』の場面は、ナルトが自己に封印された妖狐「九尾」の力をコントロールを始めるシーンである。この段階の九尾はナルト自身の悪意と呼応することでナルトを乗っ取ろうと常に狙っており、ナルトはまず自分自身の闇の部分に向き合うことになる。少年マンガなど青年の成長を描く「ビルドゥングスロマン(自己形成小説)」では、「自己の内面との対話」を通じてより深みのある自己を形成する成長過程が丁寧に描かれていることが多い。(p80)
  • ラービア・アダウィーヤのイメージがあまりにも強かったのか、女性とスーフィズムというと詩や情愛に注目が集まりがちだが、15-16世紀のシリアのダマスカスで活躍したアーイシャ・ビント・ユースフ(1517年没)も忘れてはならない。彼女はクルアーン解釈学やハディース学、法学も修めた女性のイスラーム学者で、詩作だけでなく、伝統学問としてのスーフィズムを学び、実践した人物でもあり、近代化以前のイスラーム世界で最も多くの学術書を遺した女性イスラーム学者兼スーフィーだといわれている。(p99-100)
  • メヴレヴィー教団の修行のための奉仕職は、台所の仕事を中心にさまざまな役職に振り分けられていた。主要な奉仕職は18あり、これはメヴレヴィー教団の祖ジャラールッディーン・ルーミー(1273年没)が『精神的マスナヴィー』の最初の18行の詩を彼自身の手で書いたことに因んでいる。メヴレヴィー教団の修行場を取り仕切るのは料理長であり、老齢の独身の修行者が選ばれた。18の奉仕職はすべて、この料理長の管理の下で修業に励むことになっていた。修行者は雑用係から始まり、掃除や洗濯などさまざまな作務をこなしていく。どれも我欲を抑える術を学ぶ「奉仕」や「利他心」の実践として行われ、なかでも修行者の食事を扱う料理職は修行者の中でも最も高位の者が担う奉仕職であった。(p161)
  • イスラーム詩文化としてはペルシャ文学がイスラーム文明に与えた影響は最も大きく、サアディー(1292年頃没)の『薔薇園(グリスターン)』や『果樹園(ブースターン)』、ハーフェズ(1389年没)の詩集、ルーミーの『精神的マスナヴィー』は中世イスラーム世界でクルアーンハディースに次いでムスリムたちの精神世界や価値観に影響を与えてきた傑作である。これらのペルシャ語イスラーム詩は中東のみならず西洋でも広く知られており、ゲーテはハーフェズの詩に感銘を受け『西東詩集』を著している。ルーミーの『精神的マスナヴィー』はスピリチュアルブームの火つけ役であり、西洋にはムスリムではないがルーミーの詩を熱心に読む「ルーミー・マニア」と呼ばれる層も存在する。(p182-183)