Kadoさんのブログ

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菅野恵理子『MIT マサチューセッツ工科大学 音楽の授業』を読む

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MIT 音楽の授業

MIT マサチューセッツ工科大学 音楽の授業:世界最高峰の「創造する力」の伸ばし方
/ 菅野恵理子
あさ出版、2020、357p
http://www.asa21.com/book/b525754.html

はじめに:世界最高峰MITで音楽が学ばれる理由…3
第1章 なぜ「科学」と「音楽」が共に学ばれているのか?
 人文学は、AIをどう捉えているのか?…24
 MIT音楽学科の歴史:創立当初から理論&実践を重視…32
第2章 人間を知る・感じる
 《西洋音楽史入門》:創造の歴史をたどる…61
 《ワールドミュージック入門》:世界の音楽を体感する…90
 《オペラ》:あらゆる情動の表現と様式を学ぶ…107
 《ザ・ビートルズ》:複合的な表現を読み解く…135
第3章 しくみを知る・創る
 《ハーモニーと対位法I》:しくみを知る・使いこなす…152
 《調性音楽の作曲I》:さまざまな文脈を読み解く・創る…169
 《20世紀音楽の作曲》:新しい世界観に挑む…188
第4章 新しい関わり方を探究する
 《インタラクティブ・ミュージック・システム》:新たな楽しみ方を開拓する…210
 《ラップトップ・アンサンブル》:パソコンを楽器に…218
第5章 他者・他文化・他分野と融合する
 《室内楽》:個x個による究極のコラボレーション…244
 《MITシンフォニーオーケストラ》:他者に、自然に、耳を傾ける…250
第6章 MITの教育から探る、未来を生きる世代に必要なこと
 ①自分の身体知を掘り起こす…272
 ②多様性を受け入れる…277
 ③枠の外に出る、未知の状況に向き合う…288
 ④「より大きな全体」を構想する…295
第7章 「いま・ここ」と「はるか未来」を見据えて
 一人一人が創造者となるために
  ①観察と発見:「いま・ここ」の表層から深層へ…319
  ②物語の創造:どこまで進めるのか?進めていいのか?…326
  ③意識の成長:進化した意識で未来を描く…335
  ④愛:創造の源はどこにでもある…342
おわりに:音楽で身体と心を揺らし、新たな世界の扉を開く

メモ

  • 『ライブラリー・セッション』では音楽司書をゲストに迎え、資料の批判的な扱い方、学術資料の探し方などを学びます。(p103)
  • メディカル・エスノミュージコロジーの例としては、ウガンダでのHIV撲滅運動事例を通して、音楽教育の役割を学びました。・・・実際にウガンダではHIV患者が劇的に減ったという実証データもあります。5歳の子どもが歌う内容はかなり詳しく(HIVが危険であること、どのように自分で身を守ればいいのか、など)、これがウガンダに大変大きな意識向上をもたらしているようです。(p104-105)
  • カスバード先生は、「デジタル・ヒューマニティーズ」という新しい領域を立ち上げている。今年3年目を迎え、35名の学生が在籍しているそうだ。(メロン財団が支援) 「コンピュータープログラミングを学んでいる学生に、それをどう人文学に応用すればいいのかを教えています。MITでは音楽とコンピューターを組み合わせた学びは盛んですし、人文学の学びにコンピューターを用いる試みも以前からありましたが、文学や歴史学を専攻している学生を対象にしているのではない点が他大学とは異なりますね。(p232)
  • オンライン・アーカイブの整備・充実化により、今後芸術分野でもさまざまな研究が進むだろう。膨大な音声・画像・映像情報が整備され、目の前に差し出されるとき、我々に問われるのは、「何を問うか」という力だ。膨大な物事や情報を知っているという量的なフェーズから、それをどう生かすのか、という質的なフェーズに移ったことを意味する。(p234)
  • MITの人文学・芸術・社会科学部は、学生にどのようなことを学んでほしいと思っているのだろうか。 人文学を通して身につけてほしいツールキットとして、「クリティカル・シンキング(批判的思考)、歴史や他文化への理解、数学と統計を運用・分析する能力、優れた文学者や芸術家の洞察に触れること、実験への積極的な取り組み、変化を受け入れること、曖昧さに方向性を与える能力、そして芸術や人文学で培われる創造力」と記されている。(p270-271)
  • 世界最高峰の科学技術系総合大学として、MITが見据えているのは、人類、世界、自然、地球の未来である。 その1つとして、2015年から「Solve Gloval Challenges」が進められている。・・・このイニシアティブのコアバリューとして、次の5つが挙げられている。「楽観的(解決できない問題はない)」「パートナーシップ(1人または1企業で解決できる問題はない。パートナーシップによって進歩する)」「オープン・イノベーション(優れた才能やアイディアはどこにでもある。それを見つけて支援したい)」「人中心の解決(解決策は人から始まり、人に終わる。設計対象となる人々を巻き込むこと)」「インクルーシブ・テクノロジー(すべての人々に機会を創り出すために、テクノロジーは経済的・文化的・社会的障害に働きかけるべきである)」(p301-303)
  • 若い世代の方々には、ぜひこの3つの力を贈りたいと思います。まず1つ目は「出杭力(突出する力)」です。杭が出るとハンマーでたたかれますが、はるかに抜きんでた杭はたたかれません。これは若い人にとって大事なことだと思います。そして2つ目に「道程力(道を切り開く力)」。新しい環境に飛び込み、新しいことを始めよとすると、究極の孤独を味わうかもしれません。しかし高村光太郎の詩のように、「僕の前に道はない。僕の後ろに道はできる」。ぜひ新しい道を切り開いていただきたいですね。最後に「造山力(海抜ゼロメートルから山を造り上げ、頂点を征服し、他者を招き寄せる力」。(p312)

参考