Kadoさんのブログ

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追悼・長尾真先生

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長尾真先生の本

京都大学総長、国立国会図書館長を務められた長尾真先生が、5月23日に亡くなられた。1936年生まれ、84歳であられた。情報工学者の長尾先生は国会関係者以外では初めての国会図書館長となられ、2007年から2012年まで資料のデジタル化の推進を先頭に立ってすすめられた。直接お目にかかる機会はなかったが、ARGの岡本真さんの情報発信でしばしば長尾先生のご活躍ぶりを知ることになった。先生の本は何冊か読んだが、今手元にあるのは次の2冊。先生は次第に哲学の領域に足をすすめられていたようです。ご冥福をお祈りいたします。
長尾真『電子図書館新装版 岩波書店 2010年
1994年に岩波科学ライブラリーの1冊として刊行されたものの新装版。巻末に「新装版の読み方」を岡本真さんが書かれている。電子図書館の構想を1994年時点でかくも深くたてられていたことに改めて感動する。目次は次の通り。
1.インターネット電子図書館
2.マルチメディア時代
3.図書館情報の組織化
4.図書の情報構造
5.マルチメディア電子図書館
6.電子読書
7.将来の姿と課題

長尾真『情報を読む力、学問する心』(シリーズ「自伝」) ミネルヴァ書房 2010年
国会図書館長在任中に出された自伝。本書カヴァー裏に「情報学の第一人者、長尾真。神職の家に生まれた好奇心旺盛な少年は、いかにして学問と出会い、研究の道を進むにいたったのか。自らの人生を振り返った本書では、画像処理、機械翻訳電子図書館といった情報学の研究や、大学の教育や行政のみならず、その行動や思想に至るまで、余すことなく語る。」とある。目次は次の通り。

はじめに
第一章 子どもの頃が人生を決める…1
 1 神職の家(病弱な幼少時代/福井で玉音放送を聞く/一家総出で畑仕事/自然に囲まれた小学校/滋賀の御上神社/風呂焚きと思索)
 2 中学生の頃(境内の草取り/悟りにいたる/本との出会い/慎重な兄の性格/周囲からの期待)
 3 高校生活(学力の差を知り、発奮する/大津東高校というところ/琵琶湖の水質調査/先生に叱られたこと/忘れられぬ本/京大進学を志す)
第二章 学問の何たるかを知る…25
 1 大学生活(片道二時間の通学/一般教養の講義/語学学習を楽しむ/専門科目の講義)
 2 大学院時代(コンピュータとの出会い/プログラミング言語/数式の構造を分析する/助手に誘われる)
 3 助手になって(形式言語の分析の研究/ヨーロッパへの出張/英語が話せずに困る/先生の期待にそむいて/何かがふっきれて)
 4 文字読取装置(数字の識別/郵便番号読取装置)
 5 教えを受けた多くの先生方(先生方から多くを学ぶ/大学以外の方々とのつき合い/落胆と希望)
第三章 学問の草創期に出会えた幸運…55
 1 顔写真の解析(初めて濃淡画像を扱う/万博でのデモンストレーション/顔の解析は難しい)
 2 助教授の期間(フランスへ/下手なフランス語で講義/翻訳のいくつかの段階/フランスでの生活)
 3 教授になって(あっという間に教授/研究費をとる苦労)
 4 航空写真の解析(アメリカでやっていない方式で/新しい方法論の導入で論文賞/研究室の変化)
第四章 自分の学問の確立…75
 1 文の生成と意味の取り扱い(チョムスキー生成文法チョムスキーに欠けているもの/ニューヨーク万博の翻訳装置/アメリカで研究するか/ALPAC報告書)
 2 研究環境の整備(日本語文字の入力装置/大型補助ディスク/自然言語の様々の研究)
 3 機械翻訳研究のスタート(研究を始めるにあたって/論文表題の翻訳システム/有限オートマトンモデル/ヘリウムは少年です/ヨーロッパの状況)
 4 Muシステム(日米摩擦解消への貢献/構文翻訳方式/研究開発のチーム作り/システム開発の困難性/研究の評価/機械翻訳国際連盟の設立)
 5 用例主導翻訳(言語の文法は概念的なものである/言語の文法は自然科学の法則とはちがう/言語の学習は用例に支えられている/用例翻訳のアイディア/類似表現を用例辞書から発見する/自分の考えた方法に希望を捨てず/ofの翻訳/用例解釈におけるシソーラスの大切さ/統計翻訳の出現/用例翻訳方式の利点/言葉の意味について)
 6 情報科学辞典(情報科学の研究者達と/白紙からの辞書の作成、その方法論/辞書の利用者の立場に立って」)
 7 電子図書館の研究開発(新しい分野へ/理想の電子図書館/書物の解体/電子図書館アリアドネ/私の原稿書きのスタイル)
 8 学問の幅を拡げる(昔の学者は遊び心をもっていた/対話研究会/国立民族学博物館/外国の友人たち)
第五章 大学運営にたずさわる…151
 1 大学附属機関の長(大学計算機センター長/ビットネットの導入/学内ネットワークの建設/メタモルフォーゼ/附属図書館長/図書館司書の地位の向上)
 2 情報学大学院の創設(新しい大学院の創設/情報科学でなく情報の学を目指して/異分野との交流の大切さ)
 3 総長就任(やるしかないという心境/新総長の最大の課題は新キャンパス/桂御陵坂の決定に向けて/一度さがってまた出直す/周囲の理解と幸運にめぐまれる)
 4 総長としてしたこと(キャンパスの美化/教育の改善/UCLAとの実時間遠隔講義/大学文書館/スポーツの振興/学生との交渉)
 5 国立大学法人法(国の行政改革の波が国立大学にも/独立行政法人通則法への抵抗/遠山プラン/苦渋の国大協臨時総会/国立大学法人法の成立/法人法の良し悪しは運用の仕方で決まる)
 6 総長退任にあたって(学長冥利につきること/総長退任にあたって/将来への期待/感性の教育/新しい研究科/京都大学の先生方の立派さ/京都大学の独自性の保持/21世紀が必要とするものを見つめる)
第六章 第二の人生…215
 1 総長退任後の数ヵ月(父の跡を継ぐ気になって/ゴルフの効用/比叡山に登る/書の楽しみを求めて/芸術は永し)
 2 情報通信研究機構理事長(東京に引っぱり出される/ビジョンを掲げ、方向性を示すことの大切さ/日本は国としてもっと情報分析に力を入れるべし/情報信頼性・信憑性研究/突然、河野衆議院議長に呼び出されて)
 3 国立国会図書館長(冒頭からあるべき姿を説く/知識は我らを豊かにする/納本制度に安住しない/ディジタル時代に向けて法改正にチャレンジ/電子図書館の建設に向けて/常に外部の目で内部を見る/図書館における情報処理技術の大切さ)
第七章 私の信条…247
 1 21世紀の概念を求めて(理性の時代の次はどんな概念の支配する時代が来るか/情の時代への予感/京都人の生き方を参考に)
 2 第三次近似の時代(微妙なことまでの追求/事例にならって)
 3 学問・研究における私の信条(学問・研究は何のためにするか/反骨精神で新しい課題を発見する/難しい課題は若い人に/研究分野の盛衰について/新しい良い研究課題の発見こそ、研究者の仕事/私における研究の波/素人の目/研究における米国との違い)
 4 工学とは何か(科学技術は科学+技術ではない/工学の定義/設計について/コンピュータの能力と人間の能力)
 5 対話の大切さ(創造性は対話によってもたらされる/外国の研究者と積極的に付き合うこと/苦手な教室での講義/学生との議論を通じての教育)
 6 自分の生き方(ゼロからのスタート/弱い体にむち打って/読書について/音楽について/怒りについて/つつましく生きる)
おわりに…291
主要著作一覧…295
長尾真略年譜…301
人名・事項索引

参考

■NDLカレントアウェアネス記事

■岡本真さんがFBで挙げられていたインタビュー記事

  • GAFA時代、日本の「知のインフラ」を構築してきた長尾真が予測する「未来」
    〔弁護士ドットコムニュース 2019年01月22日 09時01分〕
    https://www.bengo4.com/c_23/n_9129/

仲俣暁生さんが挙げていた記事、2010年のインタビュー