Kadoさんのブログ

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『世界を動かした日本の銀』を読む

『世界を動かした日本の銀』

新聞の書評にひかれて『世界を動かした日本の銀』を読みました。島根県にある石見(いわみ)銀山の歴史的意義と現在の課題を多方面から語った、2022年に開催されたシンポジウムの記録です。

16世紀に本格的採掘が始まった石見銀山の銀は、当時の日本の最大の輸出品目となり、日本の経済発展に大いに貢献したことが、磯田道史のわかりやすく説得力ある口調で解き明かされました。石見銀山は名前しか知りませんでしたが、関ケ原の戦いを制した徳川家康が真っ先に石見銀山を確保し天領としたこと、取引のための識字率の向上が社会の発展に役立ったことなど、大いに目を見開かされました。

第4章で語られた、今世紀になって発見された鉱石標本の話も実に興味深かったです。19世紀半ばに鉱山労働者たちと代官所との連絡役を務めた高橋家から発見されたという、升目を切った箱に和紙に包まれた標本がいくつも収められていたのが写真で示されました。和紙には中身の標本についての説明書きがあり、多くの情報が得られたそうです。

1943年に閉山した石見銀山は2007年に世界遺産に登録されましたが、その背景には地元の地道な保存活動があったこと、銀を精錬するために伐採する木材を常に植林で補っていたことなども、初めて知りました。現在も緑豊かな自然の中にある銀山遺跡を未来に伝える活動についても、様々な試行錯誤が行われているようです。旧郵便局舎を改装して2015年にオープンした「オペラハウス大森座」というのは、地元の義肢装具製造会社である中村ブレイス株式会社が設置したそうで、素敵だなと思いました。若い人の移住も増えているそうで、楽しみな事です。機会があれば訪れてみたいです。

世界を動かした日本の銀 / 磯田道史, 近藤誠一, 伊藤謙 ほか [著]
祥伝社, 2023.5
200p ; 18cm (祥伝社新書 ; 675)
目次:

  • はじめに:今の日本の課題がここにある / 磯田道史…3
  • 第1章 世界を動かした日本の銀(人類史から見た石見銀山/1000年前のGDPを比較すると/平氏の経済力を支えた宋銭/銅貨から銀貨へ/石見銀山の発見/中国の経済成長を支えた日本の銀/日本が最貧国から抜け出せたのは銀のおかげ/公害と環境破壊/石見銀山を押さえた者が覇者となる/豊臣秀吉ピンハネ徳川家康の狙い/貨幣量でわかる江戸社会/識字率と経済成長の関係/日本最古のマスク/石見銀山は何を変えたか) / 磯田道史…17
  • 第2章 世界遺産登録の舞台裏世界遺産登録の意義/なぜ世界遺産制度ができたのか/ユネスコの真の目的/国連の強みと弱み/まさかの落選/逆転の理由/ついに登録/登録後の対応/生命体の“涙ぐましい”努力/環境破壊の人類史/環境破壊が止まらない本当の理由/人間の本質/思い上がりへの戒め/欲望は抑えられるか/石見銀山の普遍的価値) / 近藤誠一…65
  • 第3章 石見銀山の歴史的価値ユネスコが評価した3つの特徴/当時の採掘方法/『銀山旧記』の2つの謎/画期的だった灰吹法/戦国大名石見銀山グローバル化を推進した石見銀山) / 仲野義文…109
  • 第4章 江戸時代の鉱石標本の発見(偶然だった、研究のスタート/わが国最古級の鉱石標本/発見は21世紀になってから/幻だった「福石」/紙に書かれていた情報を読み解くと/福石は鉱石標本名ではない!?/『銀山旧記』に記載されていた鉱石/現地調査で判明した事実/肉眼ではわからなかった、銀の含有量/銀を含まない鉱石/銀品位の高い鉱石/研究成果の発表と反響) / 石橋隆…133
  • 第5章 座談会・次世代に残すために(それは、世界遺産登録の50年前から始まった/4つの課題/ユネスコ世界ジオパーク/見せ方の難しさ/地元愛より、地元の課題/いかにして子供たちの興味を引くか/自分で銀を作る/石見銀山マイスター/価値の再発見) / 磯田道史近藤誠一、伊藤謙、仲野義文、石橋隆、福本理恵…168
  • おわりに:縁に導かれて / 伊藤謙…196

■参考