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『ヌマヌマ』を読む

『ヌマヌマ』(2023年9月12日筆者撮影)

ロシア文学沼野充義沼野恭子が1981年3月15日に結成した2人組ユニット「ヌマヌマ」が、40年にわたる現代ロシア文学を舞台に走ってきた仕事の集大成として、12人の作家の作品を翻訳し、ユニット名をタイトルにしたのがこの本です。ソ連・ロシアの作家たちは1985年に始まったペレストロイカ以降、それまで唯一正しいとされた「社会主義リアリズム」の手法から解放され、自由奔放に創作活動を進めていった様子が実によくわかります。またペレストロイカ以前にもソ連の規範に縛られない作品を書き、発表の機会をうかがい、あるいは国外で出版していったこともわかりました。各人の取り上げるテーマや手法は一律ではありませんが、誰もがこみあげる感情を自由に羽ばたかせ、外面的にも内面的にも色彩豊かで深遠な精神に支えられた世界を描いています。こうした作家たちが2022年からのウクライナ情勢をどのように受け止め、創作の世界に取り込んでいくか注目したいです。

ヌマヌマ : はまったら抜けだせない現代ロシア小説傑作選 / 沼野充義, 沼野恭子 編訳
河出書房新社, 2021.10
339p ; 20cm
目次:

NDL
河出書房新社

12人の著者を生年順に並べてみると丁度男性4人、女性4人、男性4人の順になりました。上から3人は既に没していますが、4人目のエロフェーエフは2022年にドイツに移住。女性たちはみなモスクワ在住の様子ですが、9人目のシーシキンはスイス在住。グリシコヴェツはロシアの飛び地カリーニングラード在住でイスラエル国籍を取得、と様々な生き方が透けて見えます。

著者 生没年 略歴
アサール・エッペリ 1935-2012 モスクワ生まれ、モスクワ没。ユダヤ系。
アンドレイ・ビートフ 1937-2018 レニングラード生まれ、モスクワ没。
エドワルド・リモーノフ 1943-2020 ニジニ・ノヴゴロド州ジェルジンスク生れ。1974年アメリカに亡命。ペレストロイカ期に帰国。国家ボリシェヴィキ党創設。モスクワ没。
ヴィクトル・エロフェーエフ 1947- モスクワ生まれ。2022年ドイツに移住。
ニーナ・サドゥール 1950- シベリア中央のノヴォシビルスク生れ。モスクワ在住。
タチヤーナ・トルスタヤ 1951- レニングラード生まれ。1990年代はアメリカで執筆、評論。
マリーナ・ヴィシネヴェツカヤ 1955- ウクライナ北東のハリコフ生まれ。モスクワ在住。
オリガ・スラヴニコワ 1957- ロシア中央のスヴェルドロフスク(現・エカテリンブルク)生まれ。モスクワ在住。
ミハイル・シーシキン 1961- モスクワ生まれ。1995年からスイス在住。
ヴィクトル・ペレーヴィン 1962- モスクワ生まれ。モスクワ在住。アジアに傾倒。
エヴゲーニイ・グリシコヴェツ 1967- シベリアのケメロヴォ生まれ。カリーニングラード在住。2023年イスラエル国籍取得。
ザハール・プリレーピン 1975- モスクワ東南のリャザン州生まれ。チェチェン紛争参加。ニジニ・ノヴゴロド在住。

■参考