Kadoさんのブログ

日々のあれこれを綴ります

クラングフォルム・ウィーンを聴きました

サントリーホール、2022.8.22

 サントリホールのサマーフェスティバル2022にチューバ奏者坂本光太さんが出演するというので、聴きに行きました。出演されたのは最後のハースの曲だけでしたが、クラングフォルム・ウィーンという演奏団体は全く知らなかったので、興味津々で客席につきました。
 舞台には所狭しと打楽器が並べられていて、最初のシュタウトの曲ではピアノとチェレスタも入ります。しかし管楽器も弦楽器も一人ずつで、打楽器も二人だけ。他の曲もそうでしたが、少ない人数で研ぎ澄まされた音楽が紡ぎだされていきました。打楽器がたくさんあるのにリズム主体の曲は一つもなく、「歌うようなメロディー」というのもなく、あるのは「豊かな響き」……。
 最後のハースの曲では最も多くのメンバーが登場しましたが、演奏の途中で合唱の声のようなものが聞こえてきました。しかし舞台には歌い手はいません。なんでも大きな銅鑼を打楽器奏者が少しずつこすっていくことで、人間の声のような響きを創り出していたようでした。
 2曲目のイヴィチェヴィチはクロアチア生まれの女性作曲家ですが、作品はまるで竹林の中を風が吹くような、日本の景色を思わせるものでした。3曲目の塚本は最も若く、演奏終了後に客席から呼ばれて舞台に立ちましたが、瑞々しいエネルギーがほとばしるような作品でした。4曲目の武満徹が他の曲の中に違和感なく存在していたことが、とても印象的でした。
 私が初めて武満を演奏したのは1974年、プログラムはウェーバー『魔弾の射手』序曲、武満徹『弦楽のためのレクイエム』、ブラームス交響曲第4番』というもの。ドイツの管弦楽の王道を行くような作品2曲にはさまれて、空中を漂うような武満の音楽はどちらかというと所在無げな印象でした。ところがクラングフォルム・ウィーンのコンサートでは、現代音楽の先端をいくプログラムの中に、武満の作品が何の違和感もなく収まっていたのです。
 ハースの曲はプログラムノートによると、「1999年クロアチアに滞在していたハースは、NATOの戦闘機が上空を通過する際の音を聞き、その恐ろしさに戦慄する。本作は政治的プロテストではなく、あくまで戦争を前にした自身の絶望、無力感の表現である」と語っているそうです。たしかに戦闘機が上空を飛ぶような、うなり声のような響きがありました。今日もウィーンはウクライナから遠くはないのです。
 現代という時代の中でしか生まれえなかった音楽、その豊かな響きの余韻に浸りながら、家路につきました。

サントリーホールサマーフェスティバル2022
ザ・プロデューサー・シリーズ
クラングフォルム・ウィーンがひらく
大アンサンブル・プログラム─時代の開拓者たち─
8/22(月) 19:00開演(18:20開場)大ホール
プログラム:

  1. ヨハネス・マリア・シュタウト(1974~ ):
    『革命よ、聴くんだ(ほら、仲間だろ)』アンサンブルのための(2021)日本初演
    Johannes Maria Staud: Listen, Revolution (We're buddies, see –) for Ensemble
  2. ミレラ・イヴィチェヴィチ(1980~ ):
    『サブソニカリー・ユアーズ』アンサンブルのための(2021)日本初演
    Mirela Ivičević: Subsonically Yours... for Ensemble
  3. 塚本瑛子(1986~ ):
    『輪策赤紅、車輪(ラートラートロートレッド、レーダー)』大アンサンブルのための(2017)日本初演
    Eiko Tsukamoto: rad rat rot red, räder for Large Ensemble
  4. 武満 徹(1930~96):
    『トゥリー・ライン』室内オーケストラのための(1988)
    Toru Takemitsu: Tree Line for Chamber Orchestra
  5. ゲオルク・フリードリヒ・ハース(1953~ ):
    『ああ、たとえ私が叫ぼうとも、誰が聞いてくれよう…』打楽器とアンサンブルのための(1999)日本初演
    Georg Friedrich Haas: Wer, wenn ich schriee, hörte mich... for Percussion and Ensemble

指揮:エミリオ・ポマリコ
演奏:クラングフォルム・ウィーン、ほか
後援:オーストリア大使館/オーストリア文化フォーラム東京
Websitehttps://www.suntory.co.jp/suntoryhall/feature/summer2022/producer.html

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