Kadoさんのブログ

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ごろつく息:坂本光太x和田ながら

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ごろつく息 2021.12.29

東京コンサーツが主催する「態度と呼応のためのプラクティス」の第1回、「ごろつく息」を鑑賞してきた。旧知のチューバ奏者坂本光太が未知の演出家和田ながらとコラボしての公演、何が起こるか予想できなかったが、最後まで目と耳の離せない充実した内容だった。プログラムに坂本は「すごくない、オーラのない、しょぼい演奏をしたい」と書いていたがそれは明らかに正反対で、実際には「ものすごい、オーラに満ちた、力強い演奏」であった。 
 

態度と呼応のためのプラクティス no.01

ごろつく息:坂本光太(チューバ奏者)×和田ながら(演出家)
2021年12月29日(水)19:00開演
会場:トーキョーコンサーツ・ラボ
https://tocon-lab.com/event/20211229

■プログラム

  • 《浮浪》(2021) / 長洲仁美、和田ながら

舞台に一人で現れた長洲は前触れもなく科白をしゃべり始め、穴のようなところに落ちてそこから生還する物語を一気に語った。脱出の経過を示す演技と共に圧倒的な存在感であった。

  • 《カテゴリー》(2013-14) / チャーリー・ストラウリッジ(日本初演

長洲は舞台下手に袖を向いて立ち、坂本がチューバをかかえて登場。中央の椅子に座り演奏を始める。どこからかかすかに聴こえてくるさざ波のような音がチューバから発するものだと気が付くのに時間がかかった。客席は平らなので私の席からは奏者の姿が見えなかったが、「微細な変化を伴う静謐なノイズ」とプログラムにあるとおりの音に聴衆は緊張感をもって最後まで聴き入っていた。

  • 《エシャンジュ》(1973) / ヴィンコ・グロボカール

坂本は3種類の唄口を首から下げて椅子にすわり、横にミュートであるシンバル、プラスチックの桶、円錐形のカラーコーンが置かれる。正面横にiPhoneが設置され、おそらく楽譜が表示されていた。演奏が始まると長洲がミュートの装着を補佐し、「唄口」「ミュート」「ダイナミクス」「アーティキュレーション」の組み合わせ4の4乗=256通りが演奏された。2020年の坂本の公演ではカーテンの向こうで奏されたので音しか聴こえなかったが、今回は奏法を見るために後方で立って鑑賞したので、めまぐるしく変化する音の変化を眼で確かめることができた。作曲者も実施しなかった楽譜通りの演奏に挑戦した坂本は見事だった。

  • 《オーディションピース》(2021) / 坂本光太、和田ながら

休憩後に登場した坂本は楽器を持たずに中央の椅子に座り、何かのオーディションを受けている模様を早口で両手も使ってしゃべり続けた。最初の《浮浪》で見せた長洲の演技を彷彿させるような時空間であった。こんなに長く一人で舞台上でしゃべる坂本の声を聴くのは初めてで、身体についての深い見識が感じられた。

  • 《身体と管楽器奏者による序奏、プレリュードと疑似的なフーガ》(2021) / 池田萌(委嘱初演)

坂本は漏斗をつけた長いホースとペットボトルを持ち、ホースの下に桶を置き下手に立つ。長洲はペットボトルを持ち上手に立つ。演奏が始まると長洲は「と」が付く言葉を一つ発してはペットボトルから水を一口飲む。坂本は同じタイミングでペットの水を漏斗からホースに流し込む。なるほど人間は一つの管であることが視覚的に表現された。ここまでが序奏で、次に坂本が中央の椅子に座り、長洲は上手を向いて前かがみになりホースを持つ。そして坂本の膝にあおむけに乗り、坂本は長洲の体を支えながらチューバの唄口をホースに入れて演奏し、長洲はホースの反対側の漏斗を支えて音を発出させた。面食らう情景の中でプレリュードとフーガが流れた。管楽器とは何かを究極まで追求した舞台だった。

  • 《一番そばにいる》(2021) / 坂本光太、長洲仁美、和田ながら

坂本は譜面台に置かれた楽譜を見ながら古典的な短い作品を演奏(これはしょぼい演奏だった!)。2回目は同じ曲を演奏しながら長洲が目の前のチューバに映る光景をレポートしつつ坂本の周りを巡る。3回目はそのレポートがさらに詳しくなる。4回目は坂本が唄口から水を楽器に流し入れそのまま演奏し、管の中で泡立つ水の音も聴こえる。5回目も同様で長洲のレポートは詳細を極める・・・3人の異なる個性がぶつかりあい、からみあいながら創出する舞台を堪能した。
     
■出演者およびスタッフ

  • 坂本光太(チューバ奏者)
  • 和田ながら(演出家)
  • 長洲仁美(俳優)
  • 甲田 徹(音響)
  • 小原 花(演出助手、照明)
  • 池田 萠(作曲)
  • 後藤 天(記録撮影)
  • 西村聡美(制作・東京コンサーツ)

■主催:東京コンサーツ
■助成:公益財団法人セゾン文化財団(和田ながらに対して)

■記録

  • 演奏会評:福尾匠、伏見瞬の2名の批評家による公演レビュー

態度と呼応のためのプラクティス|ごろつく息:坂本光太(チューバ奏者)× 和田ながら(演出家) | TOKYO CONCERTS

https://www.tokyo-concerts.co.jp/wp/wp-content/uploads/2022/02/20211229_TCL_Archive_web.pdf

■参考


更新履歴
2022.1.6:細部を修正
2022.2.26:記録を追加