Kadoさんのブログ

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末盛千枝子『人生に大切なことはすべて絵本から教わった』(現代企画室、2010)

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 絵本編集者の末盛千枝子さんの本。代官山の会員制図書室ヒルサイドライブラリーで、2008年から翌年にかけ10回にわたり行われたセミナーの記録を編集したもの。毎回のテーマに沿った絵本が何冊も紹介され、上質なブックトークを聴いている心地よさだった。さらにどの章も、読後にずっしりと心に響くものが大きい。また自分の知っている世界はこんなに小さかったのかとも思う。
 末盛さんは彫刻家舟越保武(ふなこし・やすたけ、1912-2002)の長女で、絵本出版の至光社、ジー・シー・プレスを経て1988年に(株)すえもりブックスを設立。2002年から2006年まで国際児童図書評議会(IBBY)国際理事。2010年すえもりブックスを閉鎖し岩手県八幡平市に移住。出版社の(株)現代企画室のウェブサイトに「末盛千枝子ブックス」が立ち上がり、末盛さんがかつて手がけた名作の復刊に取り組んでいる。

人生に大切なことはすべて絵本から教わった / 末盛千枝子
 現代企画室, 2010
 309p ; 20cm
 目次:
口絵写真
はじめに …6
人生に大切なことはすべて絵本から教わった
 タシャ・チューダーとの出会い …11
 仕事のしあわせ:ゴフスタインから考える …31
 生きる知恵:シャーロット・ゾロトウとともに …51
 女性の生き方を考える:ねずみ女房を入り口にして …73
 家族の風景:The Family of Man …105
 クリスマスの絵本:贈り物(ギフト)について …133
 即興詩人の旅:安野光雅さんと鷗外 …167
 アレキサンドリア図書館をめぐって:松浦弥太郎さんと語る …201
 勇気と好奇心:ピーター・シスの絵本を中心に …239
 友情について …269
末盛千枝子の仕事について / 島多代 …293
あとがき …298
本書の中で紹介された主な書籍 …309

付箋を付けたところ

「家族の風景」より
 (IBBYの創立者イェラ・レップマン『子どもの本は世界の架け橋』に関連して)レップマンは、大戦中にドイツからロンドンに逃げてきたユダヤ人です。ものすごくおっかない顔したおばさんですけれど、すごく優秀な人で、新聞記者でした。戦争が終わった時に連合軍から頼まれて、ドイツの女性と子どもたちのためになにかしてくれと言われてドイツに帰ります。そこで目にしたのは、食べるもの、着るものは連合軍が手配しているんですが、子どもたちに精神の糧である本がない、ということでした。私も知らなかったのですが、ナチスは人間を殺しただけでなく、本も焚書坑儒のように殺したのですね。そこでレップマンは、世界中に「ドイツの子どもたちに本を贈ってください」という手紙を書いて、すごくたくさんの本が世界中から集まりました。ところが、ベルギーからは「私たちはドイツのために何回もひどい目にあってきました。ドイツなんかのために、なにもする気持ちになりません」という断りの手紙がきたそうです。その後がレップマンの素晴らしいところで、「わかりました。ですが、そうであればそうであるだけ、もう二度とそのようなことが起こらないためにも、ドイツの子どもたちに本を贈ってください」という手紙をベルギーに再度送ったのだそうです。そうしたら、ベルギーから、本当に美しい宝物のような本がたくさん届いたということです。(p122-123)

アレキサンドリア図書館をめぐって」より
 (「暮らしの手帖」編集長の松浦弥太郎さんとの対談から、松浦さんがアメリカ旅行中、東海岸で知り合った本屋さんが案内してくれた図書館)それは図書館といいつつ、一般の普通の人の家なんですよ。非常に読書好きなあるご婦人がいまして、そのご婦人―たぶん七〇歳なんですけど―が、自分は本が好きで、本がどんどんどんどんたまっていっちゃう、そこで自分の家を解放して、図書館にしてしまう。(中略)要は、分かち合いたい、なんですね。
末盛:たぶん、私はこういうことが好きですよ、というのは人と人とのコミュニケーションで最高の喜びですね。もうひとつは、自分は知らなかったけれど、相手の言葉を通して自分の中にあったものが開かれる、そういう喜び。そのふたつのことは、重要なポイントではないかな、と思います。(p219-220)

「勇気と好奇心」より
 ダーウィンが『種の紀元』という本の中で、ただ一箇所、絵でしか表現できない箇所があり、それが生命が続くということを表現している樹のイメージだそうです。「進化論」で歴史を大きく転換させた学者が、その最も重要なことを絵でしか表現できなかったということはほとんど神秘的だと思います。今だにみんな「生命の樹」と言っているということでした。(p248)

参考リンク