Kadoさんのブログ

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スヴェン・ベッカート『綿の帝国』を読む

スヴェン・ベッカート『綿の帝国』

アメリカの研究者が書いた『綿の帝国』の書評を読み、図書館から借りてきました。以前エリザベス・アボットの『砂糖の歴史』を読んでずいぶん世界史の理解が進んだので、そうした期待もありました。綿花生産と紡績業の軌跡を世界規模で追った700ページ近い本でしたが、今も身につけている綿製品の出自の複雑さに頭がくらくらしました。取引を支配する主役は交代しても、現在でも労働者の劣悪な環境があることも知りました。20世紀初頭にアメリカの奴隷出身の農学者がアフリカのトーゴで、綿花栽培の指導に当たったという話に興味を引かれました。遠征隊のリーダー、ジェームズ・キャロウェイウィキペディア英語版から翻訳しておきました。

スヴェン・ベッカート著;鬼澤忍、佐藤絵里訳
『綿の帝国:グローバル資本主義はいかに生まれたか』
紀伊國屋書店、2022.12、848p
ISBN 978-4-31401195-2
目次:

  • はじめに…8(綿のたどった軌跡、多様性を関連づける本)
  • 第1章 グローバルな商品の誕生…30(亜熱帯植物の綿が世界中で栽培され、インドで紀元前に綿織物生産。南アジア、中央アメリカ、東アフリカが中心)
  • 第2章 戦争資本主義の構築…68(15世紀から綿がヨーロッパに伝わり、綿製品の取引が広がる)
  • 第3章 戦争資本主義の報酬…111(イギリス産業革命、紡績工場)
  • 第4章 労働力の獲得、土地の征服…152(綿花の産地がインドから世界各地へ広がる)
  • 第5章 奴隷制の支配…175(アメリカ合衆国で奴隷による綿花栽培が拡大)
  • 第6章 産業資本主義の飛躍…234(19世紀、大資本による機械紡績が欧米に広がる。奴隷から賃金労働へ)
  • 第7章 工業労働者の動員(大量の労働力、農村から都市へ、児童労働、女性、プロレタリア化と闘争)…295
  • 第8章 グローバルな綿業へ(帝国の中心リヴァプール、綿業は19世紀の主要産業の1つに、綿花の等級と近代的綿花市場、先物取引ブレーメンルアーブル、ニューヨーク、ロンドンの金融、インド、市場情報収集、商業会議所、法律)…334
  • 第9章 戦争が世界中に波紋を広げる南北戦争、綿花価格の値上がり、各地で工場閉鎖、世界各地での生産へ移行、奴隷解放)…398
  • 第10章 グローバルな再建(機械式織機の増大、綿花栽培労働の変化、インド、ブラジル、エジプト、各国政府の参入、資本家と政治家の結びつき)…444
  • 第11章 破壊(19世紀後半、世界中で大資本が綿花栽培に投下、各地に綿花取引所の開設、米国基準の適用、手工業の崩壊、食料危機)…498
  • 第12章 新たな綿帝国主義1860年から1920年までに、日本による朝鮮での綿花栽培、ロシアの中央アジアでの綿花栽培、各国植民地での栽培、米国内での拡大、ドイツのアフリカ進出、米国黒人によるアフリカでの指導)…534
  • 第13章 グローバル・サウスの復活(イギリス綿業の衰退とアジアの台頭、綿業労働者の組合結成、中国の張謇、アメリカ南部、ブラジル、日本や中国での進展、ガンジー、繊維労働者の独立闘争)…598
  • 第14章 エピローグ―織り地と織り糸(1963年、リヴァプール綿花取引所の競売、国家主導を経て21世紀は国家に依存しない大企業、中核の中国、変容し続ける帝国)…657
  • 謝辞
  • 訳者あとがき
  • 原註
  • 図版クレジット
  • 索引

付箋を付けたところ

  • 11世紀後半に西アフリカで綿の紡績と製織が行われていたこともわかっている。その頃には、綿の紡績と製織は現在のトーゴを含む南方にまで広まっていた。ムーア人の旅行家のレオ・アフリカヌス(1485頃~1554頃)によれば、16世紀の初頭には「メッリ国」に「きわめて豊富な」綿が存在し、「トンブトゥ王国」では綿商人が富を築いていたという。これらは、西アフリカのマリ帝国と重要都市トンブクトゥを指している。(p41-42)
  • 欧米の全域で女性が綿織物業の労働者の主流だったが、メキシコとエジプトでは男性労働者が主流だった。女性労働者がこうして圧倒的多数を占めた場合、綿業は男性が多い石炭鉱業、製鉄業、鉄道産業に比べて影が薄くなり、往々にして軽視されるという結果を招いた。(p319-320)