ひと月ほど前に新聞で、俳人高野ムツオの「泥かぶるたびに角組み光る蘆」という句を知りました。宮城県出身で多賀城市に住む高野が、3.11の直後に詠んだ句です。自宅から見下ろした河原に芦(蘆)は見えませんでしたが、心象イメージで作ったとのこと。「角組む蘆」は、川辺に茂る芦が春先に角状の新芽を伸ばす形からきた、春の季語と知りました。高野は津波で泥だらけの河の中から鋭い穂先を光らせる芦に、希望の光をみたのです。
10年ほど前に、深井史郎作曲のカンタータ『平和への祈り』を演奏したことがあります。作曲は1949年で、戦禍から立ち直りつつある時期の作品です。広島出身の詩人大木惇夫の詩には、被爆した故郷への深い思いが込められています。その中に「春は来て 緑つのぐみ」という言葉があるのですが、演奏した当時はこの「つのぐみ」が何を表すのかよくわかりませんでした。その疑問が、高野の句から一瞬で氷解しました。
高野の句は全国紙で報道されたそうですが、不覚にも気が付きませんでした。震災の翌年、多賀城市役所敷地の庭園に建てられた「蘆の碑(いしぶみ)」に、この句が刻まれているとのことです。多賀城市に縁はありませんでしたが、折を見て行ってみたくなりました。
■参考
- 泥かぶるたびに角組み光る蘆 高野ムツオ 評者: 松本詩葉子〔現代俳句協会 2012年11月11日〕 https://gendaihaiku.gr.jp/column/1729/
- 東日本大震災:多賀城市役所に「蘆の碑」 高野さんが震災直後に詠んだ句を刻む 「俳句の力を信じたい」 /宮城〔Rotary at work 2012.07.07〕http://rotary.jugem.jp/?eid=4275
- 第11回演奏会「深井史郎作品展」〔オーケストラ・ニッポニカ〕http://www.nipponica.jp/concert/concert_history.htm#021
- 第18回演奏会「日本近代音楽館」へのオマージュ〔オーケストラ・ニッポニカ〕http://www.nipponica.jp/concert/concert_history.htm#031