Kadoさんのブログ

日々のあれこれを綴ります

美図連と酒井悌先生

 1980年代の専門図書館界は、BLLA旋風が席捲していました。BLLDといえばBritish Library Lending Division※のことですが、BLLAはなんとBeautiful Lady Librarians Association、訳して美人図書館員連盟、通称美図連のことです。もちろん認知された団体ではなく、年末の忘年会のためだけの組織ですが、日頃孤軍奮闘している専門図書館員にとっては他組織の人と気軽に知合える貴重な集りでした。女性ばかりではなく、中図連(中年~)やヤン図連(ヤング~)の男性陣も参加して、それはそれは賑やかなパーティーが毎年繰り広げられていました。そして酒井悌(やすし)先生はいつもパーティーの中心でした。
 酒井先生は戦後国立国会図書館の設立当初からその業務に携わり、幅広い部署で活躍されました。専門図書館協議会の創設にも尽力され、国内外の太い人脈を育て上げ、副館長として図書館業務の発展に心血を注いでこられました。1980年に退職されてからは金沢工業大学ライブラリーセンター長として、先端的な図書館を創設し、欧米の代表的ライブラリアンを招聘した国際セミナーを毎年開催され、我が国の図書館のために献身的な努力を重ねられました。私は仕事を通じて酒井先生のお人柄に接するにつけ、なんと偉大な方がおられるのだろうと心から尊敬いたしておりました。金沢の国際セミナーには一度だけご招待いただきましたが、行届いた催しに唯々感激したのを憶えています。
 酒井先生は図書館の器だけでなく、それを動かす人材の育成にも心を砕かれていたように思います。図書館どおしの連携もさることながら、ライブラリアン達が横に手を繋ぐことの大切さを、身をもって示されていたのでしょう。また官僚的保守的な国立機関におられたにもかかわらず、女性の登用に深い理解をお持ちでした。一線で活躍するライブラリアンを招いたサロンを開催され、男女の別なく若い人達のバックアップをされていたことは、多くの証言者を得ることができます。BLLAでもたくさんの女性達の圧倒的な支持を受けてらっしゃいました。
 先生が78才で亡くなられてから1年が過ぎました。けれど私の中には、先生がいつかおっしゃった「この道の外に道なし、この道をゆくより外にわが道なし」という言葉が生き生きと息づいています。(門倉百合子)
 
※BLLD(英国図書館貸出部門)は1986年、組織改革によりBLDSC(British Library Document Supply Centre=英国図書館文献供給センター)となった。

初出:『This is LISA』No.3(有限会社リサ、1993年4月15日)