Kadoさんのブログ

日々のあれこれを綴ります

エリオットと大江健三郎

 T.S.エリオットに出会ったのは、独文科3年生の時だった。英文学にすこし興味がわき、とった講義にエリオットの『荒地』がでてきた。出だしの「4月は最も残酷な月」(April is the cruellest month)は有名だが、難解な詩でほとんど理解できなかった。ただ長い詩の一番最後が「シャンティ シャンティ シャンティ」で終わることは記憶に残った(シャンティはサンスクリット語で「平安」の意味)。
 2010年に芥川也寸志のオペラ『ヒロシマのオルフェ』を演奏した時、テキストを書いた大江健三郎についていろいろと調べてみた。すると大江が『荒地』を始めエリオットをたくさん引用しているのを知った。大江の初期の短編「上機嫌」の中に、ジャズの描写でつぎのようにでてくる。

……そのわたしの耳にジェリイ・マリガンとチェット・ベエカーのコンボのドラムス、ラリイ・バンカーのドラムの音は初期のバップのリズムで勢いよく、与えよ(ダッタ)、共感せよ(ダーヤヅヴァム)、自制せよ(ダムヤーク)、とささやきかけるのだったし窓にあたる雨の音は平安(シャンティ)、平安(シャンティ)、平安(シャンティ)と歌ってた!

出典:大江健三郎『見るまえに跳べ』(新潮文庫、2000)所収「上機嫌」p300

この(ダッタ)(ダーヤヅヴァム)(ダムヤーク)と、(シャンティ)(シャンティ)(シャンティ)はまさにエリオットそのままである。

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