Kadoさんのブログ

日々のあれこれを綴ります

2019沖縄ツアー第3日:OISTと沖縄県立図書館

【第3日:2月5日(火)旧正月

万座毛(まんざもう)
 三日目はまず恩納村のシンボル、万座毛を見学。そして一路OIST(沖縄科学技術大学院大学)を目指しました。OISTは2013年のARG主催ライブラリーキャンプで訪問しましたが、その時はまだ第1期生を受け入れて2年目でした。6年後の今回は、修了生が世界に羽ばたいている様子もうかがうことができました。学際的な研究室がガラス張りで外から見学でき、実験や議論の様子を見ることができます。蟻の研究者がいて「ヒアリ」が入らないよう以前から対応しているので、沖縄には一匹も侵入していないそうです。世界各国の研究者が沖縄の地で先端研究を続けているのを垣間見て、嬉しくまた誇らしく感じた次第です。
OIST アリの研究室
 M准副学長といっしょに案内してくださったYさんは、2013年以来FBで親しくさせていただいています。Yさんはヴァイオリンを弾かれるので、音楽の話でしばしもりあがりました。その後すてきなカフェでランチ。そして再びAさん運転のレンタカーで那覇に向かいました。
 1910年開館の沖縄県立沖縄図書館に始まる県立図書館は、昨2018年12月に旭橋バスターミナル上の商業施設内に新装開館しました。建物3階にある入口を入ると、5階まで吹き抜けの空間が圧倒的な開放感で私たちを包んでくれました。バスターミナルに直結しているので、離島の利用者が気軽に立ち寄れ、借りた本は離島で返却できるそうです。
沖縄県立図書館 「ウージを学ぶ」展示
 3階は子どもの読書活動推進エリアで、「ウージを学ぶ」という展示が目を引きました。「ウージ」とは沖縄の言葉で「サトウキビ」のことです。以前製糖業の歴史や奄美大島の歴史を調べた際に読んだ、エリザベス・アボット『砂糖の歴史』(河出書房新社、2011)も展示されていました。日経新聞連載で読んだ北方謙三の小説『望郷の道』では、主人公が初めて台湾に渡った時に、トラックの荷台からこぼれたサトウキビをかじり、製菓業を志します。この地に深く根ざしたサトウキビを子どもたちに伝える展示はすばらしいと思いました。
 4階はビジネス、参考資料、多文化エリアなど。5階は郷土資料のエリア。沖縄各地方の地域史コレクションがフロア一杯に広がっていました。戦前のものもあり、戦火をくぐって沖縄各地の人々が自らの歴史を綴り続けているエネルギーにしばし圧倒されました。
沖縄県立図書館 「空飛ぶ図書館」
 そのほか巨大な自動化書庫、離島へ本を届ける「空飛ぶ図書館」の部屋など実に興味深い内容の見学でした。進化し続ける県立図書館の今後は目が離せないと感じました。
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 その後レンタカーを返し、那覇空港で解散となりました。三日間それぞれに中身の濃い旅行でした。高野さん始め同行のみなさん、沖縄の皆さんに改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。

■参考:
エリザベス・アボット『砂糖の歴史』〔Kadoさんのブログ 2017-03-03〕
http://lucyblog.hatenablog.com/entry/2017/03/03/193452

2019沖縄ツアー第2日:恩納村ウィキペディアタウン

【第2日:2月4日(月)立春
 二日目はいよいよウィキペディアタウンの本番です。私がウィキペディアの意義をきちんと認識したのは、NIIの大向一輝さんが書かれた『ウェブがわかる本』(岩波ジュニア新書、2007)を読んでからです。この本では第3章「ウェブを形づくるしくみ」のなかで、「ブログ」「SNS」と並んで「集合知」が取り上げられています。仕事でブログを始めたのが2007年なので、タイムリーに出版されたこの本を隅々まで読んだのを覚えています。

大向一輝『ウェブがわかる本』
 その後ブログとSNSは順次始めていましたが、ウィキペディアに本格的に取り組んだのは2016年からでした。ウィキペディアの編集を通じて地域の情報を世界に発信するウィキペディアタウンのことを知ったのもそのころです。まずはウィキペディア自体に詳しく書かれている編集の方法をじっくり独習したのち、丁度開催された「OpenGLAM Japan 博物館をひらく 東京工業大学博物館編」に参加し、ベテランのウィキペディアンの方々と知り合うことができました。そして少しずつ自分で新規ページを作成したり、既存ページに加筆したりする経験を積みました。
 2018年秋の図書館総合展では、「ウィキペディアOpenStreetMap編集の実際」に参加し、新たな情報を得ることができました。そうこうしているうちに高野一枝さんの恩納村ツアーを知り、早速参加させていただいた次第です。ツアー直前に発行されたLRG25号がウィキペディアタウン特集でしたので、もちろん購入して読んで行きました。
 当日はまず現地を歩くことから始まり、恩納村のさまざまなスポットを恩納村文化情報センターの方に案内していただきました。私は「山田城(グスク)」が担当でしたので、特にそこは興味深くお話をうかがいました。城自体は現在無いのですが、何百年も前の歴史がN課長や若き学芸員Nさんの口から生き生きと語られることに驚きました。
恩納村文化情報センターにて
 午後はセンターにもどっていよいよ編集作業にかかりました。「山田城」グループはセンターのGさん、Iさん、ツアーからはHさんと私の4人組。本文はGさんとHさんが参考文献をあれこれひっくりかえしながら格闘していました。私とIさんはまず現地の写真を既存ページにアップするのに取り組みました。そのあとは参考文献の一覧を作成し、できたところから既存ページに追加していきました。なんとか時間内に一応の編集を終え、東京からZoomで参加していたRさんに「出典が不備」という注意書きの削除方法を教えていただいて一件落着。無事ウィキペディアタウンを終了することができました。
 夜の宴会では恩納村の方々と延々と懇親を深めたのは言うまでもありません。

2019沖縄ツアー第1日:摩文仁へ

 2月3日から5日まで、しゃっぴいこと高野一枝さんが主宰する沖縄恩納村ウィキペディア編集ツアーに参加しました。盛りだくさんのツアーでしたので、3回に分けて概要を記録しておきます。

【第1日:2月3日(日)節分】
 早朝京急で羽田へ。iPhoneでなく外の景色を眺めることにする。「節分の日の出拝みぬ車窓より」

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富士山と遠くの山々
 羽田発8:15スカイマークの便で沖縄へ。「白き峰連なる山の微笑みぬ」「雲間より沖縄の海うららかに」「春霞戦(いくさ)知る海しずかなり」
 11:10那覇空港着。ほかのメンバーと別れて一人で糸満市を目指す。ゆいレール(モノレール)で一駅の赤嶺で降り、40分ほどバスに揺られて糸満バスターミナル着。乗り継ぎバスを待つ間に近くの食堂で沖縄ソバのランチ。13時のバスで20分ほど、平和祈念堂入口のバス停下車、やっと摩文仁に着いた。
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摩文仁の海
 沖縄県平和祈念公園内には平和祈念堂ほかいくつかの施設があるが、目指すは平和の礎(いしじ)。2017年2月のニッポニカで、中村透作曲『交響絵図「摩文仁~白き風車よ~」』を演奏したので、その風景を確かめに来たのだ。タイトルの元になった比嘉美智子さんの短歌を思い出しながら園内を歩いた。

■比嘉美智子歌集『一天四海』(ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ 2017-02-05)
https://nipponica-vla3.hatenablog.com/entry/20170205/1486270047
「目眩く朝陽は礎に真対へり逆光の中の死者たちの舞」比嘉美智子

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平和の礎

 広場の向こうには絶壁の下に深い海と白い波。数知れぬ名前を刻んだ礎に海の風が吹きわたる。半円形に広がる礎には、県ごと、地域ごとに名前が白く刻まれている。少数だがアメリカやイギリスの礎もある。しかし大部分は沖縄の地名であり人名であった。すべての礎がきれいに手入れされているのがわかる。圧倒的な魂の存在に言葉を失う。

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白い風車
 帰路バス停の向こうに白い風車が見えた。例の風車に違いない。「悲しみも涙も昇天せしめむと摩文仁野に回る白き風車は 比嘉美智子」

 再びバスを乗り継ぎ那覇市内に戻る。旭橋からモノレールで牧志下車、国際通りを歩いて公設市場へ向かった。平日だが多くの観光客で賑わってる。旧正月前の賑わいだと後から知った。公設市場で高野さんたち一行と落ち合い、海ぶどうや豚肉料理など夕食の買い物をした。
 Aさん運転のレンタカーで一路恩納村へ。先着組とメッセンジャーでやり取りしながらの旅路はなかなか楽しい。走っている間にどんどん日が落ちて夕闇の中、ホテル到着。早速部屋で自炊の準備。手分けしてあっというまに御馳走が並んで宴会となった。

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沖縄の味
 沖縄の味をじっくり楽しんだ後、別室に移り校正大会。なんでも5月発売予定の本の校正とかで、分担して赤ペン片手に原稿とにらめっこした。1時間ほど格闘して元の部屋にもどると、明日のWikipediaTown の準備の最中だった。役割分担をじゃんけんで決めて終了、宴会の続きをして1日目は果てた。

■追記 (2019年2月9日)

 『摩文仁~白き風車よ~』を作曲された中村透先生が、2月7日に病気で亡くなられたと連絡ありました。中村先生は1946年北海道生まれ、国立音楽大学大学院作曲専攻を修了されて1975年から沖縄在住。琉球大学名誉教授、南城市文化センター・シュガーホール芸術監督を務められました。突然の訃報に接し言葉もありません。ご冥福をお祈りいたします。
 
□訃報・中村透 〔琉球新報 2019年2月7日〕
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-872364.html

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絵本とメルヘン
 明治学院大学図書館の貴重書コレクションの目録『絵本とメルヘン』を手に入れました。同図書館が所蔵する、169点234冊の「絵本とメルヘン・コレクション」の全書物をリスト化したものです。それぞれの表紙等の「画像集」、装丁や成立事情等を記した「詳細書誌」、画家や作家の「人名解説・索引」及び「書名リスト・索引」からなります。監修は同大学仏文科で長らく教鞭をとり、図書館長も務められた巌谷國士氏で、執筆は同大卒業生と大学院生があたり、図書館も全面的に協力してできあがったとのことです。
 監修者の「序」には、目録作成の経緯が詳細にまとめられており、構想から10年ほどをかけ丁寧に進められた作業がうかがえます。一点一点の資料がこのようにまとめられることで、より大きな文脈の中で生かされていく流れを深く感じました。

巌谷國士監修『絵本とメルヘン:明治学院大学図書館貴重書コレクション』
明治学院大学図書館、2018
147p、30㎝
目次:
 序 …4
 凡例 …8
 画像集 …9
 詳細書誌
  I 洋書挿絵本 …43
  II ちりめん本・和綴本 …109
  III 関連書・参考書 …122
 人名解説・索引 …129
 書名リスト・索引 …140
 後記 …146

EEMT2018連続上演会

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 チューバ奏者の坂本光太さんから、演奏会の案内をいただきました。「実験音楽とシアターのためのアンサンブル(Ensemble for Experimental Music and Theater = EEMT)」の2018年公演です。

日程:2018年8月3日(金)~5日(日)
会場:TOCHKA(トーチカ=特火点)(東京都足立区千住関屋町12-3)
   北千住駅から徒歩15分、京成関屋駅牛田駅から徒歩10分
   https://bit.ly/2uVvLAr
入場無料

プログラム

8月3日(金)18:30開演
「カーゲル・ベリオ・シュネーベル 身体←→行為」

  • M.カーゲル:ミルム チューバソロのための
  • L.ベリオ:セクエンツァV トロンボーンソロのための
  • D.シュネーベル:ノスタルジー 指揮者ソロのための
  • D.シュネーベル:ヴィジブル・ミュージックI 指揮者と演奏者のための
  • 即興演奏 大谷、馬場による

出演:大谷舞(Vn)、坂本光太(Tuba)、馬場武蔵(指揮、Tb)

8月4日(土)15:30開演
「グロボカール・バーベリアン・インプロヴィゼーション 身体←→即興」

  • C.バーベリアン:トリプソディ 声のためのソロ
  • V.グロボカール:レス・アス・エクス・アンス・ピレ 金管楽器ソロのための
  • 即興演奏 岡、坂本、村上による

出演:岡千穂(Electronics)、坂本光太(Tuba)、村上裕(アーティスト)

8月5日(日)18:30開演
「日本の実験音楽1966-2017」

出演:岡千穂、久保田翠、河野聡子、小坂亜矢子、坂本光太、照屋全宝、中村益久、西浜琢磨

■参考

磯田道史『天災から日本史を読みなおす』を読む

 『武士の家計簿』で一躍名をあげた磯田道史さんの、『天災から日本史を読みなおす:先人に学ぶ防災』(中公新書、2014)を読んだ。4年も前の著作だが全く知らなかったのは不覚であった。もっともこれは朝日新聞の連載が初出だそうで、朝日は読んでいないし、磯田さんはテレビにしばしば登場して有名なのも、テレビをほとんど見ない私が気が付く術はなかったとしか言いようがない。それにしても東日本大震災以降、災害に関する文書を調べるのに浜松に転職されたというのには驚いた。そして日本各地の災害記録を記した古文書を縦横に読み解いてまとめたという本書は、実に示唆に富んだ内容だった。日本エッセイスト・クラブ賞を受賞したというだけあって、読者を引きつける筆の運びが心地よかった。
 東日本大震災の後、自分にできることは何か考えた末、「社史に見る災害と復興」をテーマに多くの社史を渉猟し、随時ブログにまとめて公開した。そこから得た情報をアメリカのアジア学会で発表する機会にも恵まれた。その後社史の情報は「渋沢社史データベース」として公開したので、たとえば「水害」を検索すると1742年の関東地方の水害についての社史データなどがヒットする。私自身は退職して担当を離れたが、若いスタッフが引き継いでくれている。日本列島の防災対策に、このデータベースをぜひ活用してもらえればと思う。

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清水眞砂子さんの講演録を読む

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 東京こども図書館発行『こどもとしょかん』156号、巻頭の黒沢克朗さんは2歳のお孫さんにスカイプで絵本を読んであげてました。楽しんでくれてはいるものの、直接会って感じるぬくもりが無いのが残念でしたが、4歳になって孫の家に泊まった折、怖い話をせがむ孫に毛布の中で怖い話をすると全身で楽しんでくれました。5歳になった孫に妹が生れ、「妹が話せるようになったら何をしてあげると聞いたら『絵本を読んでやる』と一言。」と結ばれていました。ほっこりした気分です。
 続く児童文学者の清水眞砂子さんの講演録「事実と真実のあいだで:マヤ・ヴォイチェホフスカの文学を考える」は、衝撃の内容でした。ポーランドに生れ米国へ渡った作家ヴォイチェホフスカは初めて聴く名前でしたが、『ひとすじの光』『夜が明けるまで』『LSD』といった作品を清水さんが翻訳されていて、どれもすぐに読んでみたくなりました。しかし講演は単にご自身の訳書を紹介するものではなく、戦禍の故国を脱出して米国に渡り、異邦人として書き続けた作家の生きざまに縦横に迫るものでした。「弱者と敗者」への目線、個でなく「類の声を聞きとる」、作家の姿勢に疑問を持ち距離を置く、などなど、清水さんはご自身の矜持を率直に語られていました。1941年に北朝鮮で生まれ5歳まで過ごしたというご自身の出自にも触れ、日本の中のブラジル人コミュニティに話が及び、異邦人の背負う故国の歴史の重たさについて深く考えさせられました。
 この講演は、東京子ども図書館が昨年出した児童書目録『物語の森へ』の刊行記念に、昨年6月30日同館で行われたものです。この目録は私も早速購入しましたが、丁寧な仕事の積み重ねがあふれ出たずっしりした一冊です。