Kadoさんのブログ

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ラ・トゥール『聖ヨセフ』

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Georges de La Tour『聖ヨセフ』(1642年または1645年)ルーヴル美術館蔵 [Public Domain]

 今朝新聞を開いたら、このジョルジュ・ド・ラ・トゥールの『大工の聖ヨセフ』という絵が載っていました。記事は作業するヨセフについての短いもので、「蝋燭を掲げている子ども」の説明はありません。
 この絵は40年以上前に、堀田善衛『美しきもの見し人は』(新潮社、1975)の中で初めて観ました。書架から本を取り出して記述を確かめると、『指物細工師聖ヨセフ』と題された絵の説明にある「老人の巨大な、労働と生活の経験に重い背中が重量感をともなってぐっとのしかかって来るのを、蝋燭の光と、それに映えた無邪気な少年(か少女か、私にはわからないが)の物問いたげな眼と口がぴたりと受け止めている。」という一文が目にはいりました。しかし前後の文にヨセフや子どもについての説明はありませんでした。なのでこの絵については光を描く画家の力量に感動したものの、題材については考えを巡らしませんでした。
 ところが今日の新聞を読んで、聖ヨセフはキリストの養父、という記述に、はっとしました。つまり彼はマリアの夫です。ですから「蝋燭を持った子ども」は幼いキリストだと考えても自然です。そうして改めて絵を見ると、蝋燭の光がもっとも明るく照らしているのは、ヨセフではなく子どもの顔であるのに気づきます。
 私はクリスチャンではありませんが、今日という日にこの絵に再会できたことを嬉しく思いました。

■目で感じる音空間(10)ジョルジュ・ドゥ・ラ・トゥール「大工の聖ヨセフ」 音楽・文芸批評家 小沼純一日本経済新聞 2019年12月25日文化蘭〕
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191225&ng=DGKKZO53741220U9A221C1BC8000