安彦良和(1947-)は「機動戦士ガンダム」のキャラクターデザインで知られる漫画家。我が家では次男がガンダムにはまっていたので、私も少し興味を持っていた。
・ウクライナ、東プロシア、ガンダム
2006年秋の図書館総合展で、その安彦氏が登壇するフォーラムがあるというので、出かけて行った。フォーラムのテーマは「海を渡った若者たち」。安彦氏は「漫画で描こうとした大陸と日本青年」という題で、自作の漫画『虹色のトロツキー』について語られた。
フォーラムの中心は東亜同文書院という、日本人が上海に1901年に設立した商業学校のことだった。毎年日本から商家の俊英な若者が海を渡り、多くを学んでその後の日中の経済活動の担い手となって行った。1945年の終戦で学校はなくなり、45年にわたる学校の資料は関係者が大切に持ち帰り、愛知大学に継承された。渋沢栄一は東亜同文書院にも多少の関りがあったので、その点からも興味があった。
安彦氏の『虹色のトロツキー』は、1990年11月から1996年11月にかけて潮出版社の月刊漫画雑誌『コミックトム』に連載されたもので、その後書籍や文庫になっていた。2010年になると全4巻の愛蔵版が双葉社からでたのでそれを入手、一気に読んでしまった。
舞台は1938年満州に設立された建国大学。日本人を父にもつ日蒙二世青年であるウムボルトが、関東軍の密命に身を投じ、歴史の激流に翻弄されるという物語。登場人物は石原莞爾、辻政信、東条英機、川島芳子、李香蘭など。満州のことは『王道楽土の交響楽』を通じてしか知らなかったので、歴史の中心に何がうごめいていたのか、呆然としながらページを繰ったことだった。ノモンハンの地で終わることから、その後ノモンハン事件についても興味が広がった。
・『王道楽土の交響楽』目次一覧
その後、2010年から2018年まで6回大連に旅行することになったのも、この漫画の影響があることは間違いない。
・大連国際音楽倶楽部2011
・大連演奏旅行余話
■『虹色のトロツキー』各巻巻末に置かれた小文
- 『虹色のトロツキー』讃 / 山口昌男(東京外語大学名誉教授)…第1巻p498
- 再刊によせて / 安彦良和…第1巻p500
- 石原莞爾の世界最終戦争論と対ソ戦略 / 佐治芳彦(作家・石原莞爾研究家)…第2巻p496
- 満州国の首都・新京の都市計画とその思想 / 越澤明(北海道大学大学院教授)
- あるブリヤートモンゴル人の遍歴 / 藤原作弥(作家・元日銀副総裁)…第3巻p494
- 監視下に置かれていた満映の中国人作家 / 山口猛(映画評論家・満映研究家)…第3巻p496
- 六族協和に賭けた安江大佐の人道主義 / 安江弘夫(安江大佐子息・ユダヤ問題研究家)…第4巻p524
- 「満蒙」からナショナリズムを考える / 安彦良和(インタビュー)…第4巻p526
■図書館総合展特別フォーラム
2006年11月2日(火)
パシフィコ横浜アネックスホール第5会場
テーマ「海を渡った若者たち」
・漫画で描こうとした大陸と日本青年 / 安彦良和
・東亜同文書院生が記録した近代中国 / 藤田佳久
・満州の青少年像 / ロナルド・シュレスキー
更新履歴
2021.6.11:図書館総合展に関する情報を修正