Kadoさんのブログ

日々のあれこれを綴ります

いわきの図書館・博物館を巡る旅(2009年3月)

 二〇〇九年三月七日土曜日朝八時五十分、東京駅八重洲南口バスターミナル八番に集合した八人の図書館探検メンバーは、いわき行きのバスに乗り込んで九時三十分の定刻に出発しました。昨日の土砂降りがうそのような好天に恵まれ、一路常磐道を北へ走ります。利根川を越え関東平野をまっしぐら、おしゃべりに興じているうちに、十二時過ぎ、いわき市到着。いわき在住で長年いわきの図書館振興に尽力しているTさんが迎えに来てくださっていて、すぐに昼食を予約した「海食遊膳ふくふく」へ向かいました。本来は冬の料理のアンコウ鍋を特別に準備してもらい、いわき名物「メヒカリ」の唐揚げと焼き物をおつまみに話がはずみました。コラーゲンたっぷりのアンコウにも舌鼓を打ちました。
「いわきにてメヒカリつまむ春の旅」

 外へ出てTさんの乗用車と路線バスに分乗し、いわき明星大学へ向かいました。十五分ほどで広大なキャンパスに到着。正門の真正面に立派な図書館の建物があり、職員のIさんが迎えてくださいました。図書館は隣の学習センターと繋がっていて、書庫と閲覧スペースがゆったりととられていました。市民にも開放されているそうで、春休み中でしたが何人もの利用者が机に向かっていました。Tさんが開館時から携わったという書架には、丁寧に構築された蔵書が明るい陽光のなかに並んでいました。ひろびろとした壁には沖縄の植物をデザインした大きな絵が何枚も掛けられていて、丁度よいアクセントになっていました。外はかなり強い風が吹いていましたが、閲覧室の中は別世界のおちつきでした(1) 。
 図書館の隣は二年前に創られた薬学部の校舎で、最先端の設備を見せていただきました。薬剤師の実習スペースや就職の面談練習室のスペースまでありました。またキャンパスの反対側にはガラスのピラミッド型をした温室があり、さまざまな薬草が育てられていました。温室はあいにく中に入ることができませんでしたが、まわりにも多種多彩な薬草が栽培されており、あれこれおしゃべりしながらしばし散策しました。
「三月の風キャンパスに吹き渡る」

 帰りはまたバスと車の二手に分かれて市内へ戻ります。駅前で降りると目の前に巨大な商業ビルがそびえたち、そのエスカレーターを四階まで登ると図書館の入り口がありました。ここが一昨年十月にオープンした、いわき市いわき総合図書館です。職員の方が四階と五階のフロア全体に広がる施設を案内してくださいました。開架書架のまわりの閲覧席は利用者で埋まり、平日でもなんと三千人も来館者があるそうです。事務室の中には巨大な自動出納書庫があり、本の大きさごとに分けられたボックスにランダムに蔵書が入れられていました。書庫の中をボックスが自動で走る様子は、廊下の窓から利用者も眺めることができます。Tさんは案内してくださった職員の方といっしょに、この図書館の実現のために長年力を尽くしてこられたそうで、「気がついたら二十五年かかりました」とおっしゃっていました。地域の中で着実に実績を積まれてきたTさんの足跡に一同大感激。先駆的な施設と多くの利用者に圧倒されながら図書館を後にしました(2) 。
「図書館に溢るゝ人や春の宵」

 参加メンバーの一人はここで帰京。次にレンタカーを一台調達しSさんが運転、Tさんの車と二台に分乗して湯本にある旅館古滝屋(ふるたきや)へ向かいました。創業三百十三年という老舗旅館ではゆったりと温泉につかり、ご主人差し入れのカニもたっぷりの夕食を味わい、遅くまで団欒のひと時を過ごしました(3) 。当初の予定では「フラガール」の舞台になったスパリゾートハワイアンズにも行くはずでしたが、時間切れで残念ながらパス(4) 。

 翌朝は一風呂浴びてから宿の裏手にある温泉神社を見学。朝食では名物「サンマのぽうぽう焼き」も味わいました。部屋でコーヒーを飲んでから出発、まずはすぐ隣の野口雨情記念童謡館に立ち寄りました。古滝屋のご主人がやってらっしゃるとのことで、湯本温泉にゆかりのある野口雨情の直筆書幅や童謡資料が所狭しと並べられていました。童謡のSPレコードとラッパ型蓄音機もあり、「青い眼の人形」と「七つの子」をかけてもらいました。入り口の外には菜の花が満開でした(5) 。
「古き歌菜花の家に響きけり」

 車に戻り、畑や藪の続く中を走って向かったのは、国宝「願成寺白水阿弥陀堂」。広い庭園の向こうの池を越えると、桧皮葺の阿弥陀堂が佇んでいました。靴を脱いで中へはいると若いご住職が丁度お話をされており、平安末期の阿弥陀像は明治期の廃仏毀釈も無事逃れて現在に至っているとのこと。白水とは平泉の泉の字を分字したそうです。極楽浄土に咲く花が描かれた天井画もありがたく拝んでまいりました(6) 。
「草萌ゆる中に白水阿弥陀堂

 さて次のスポットは常磐炭田の様子を伝える「いわき市石炭・化石館」。ここは六十五歳以上は無料というのでメンバーに確認すると、八人のうち五人が該当者で会計係を喜ばせました。化石や恐竜の展示を年配のボランティアガイドさんが説明してくだり、エレベーターで地下にもぐって往時の炭鉱の展示を見学しました。最初は手で掘っていた石炭を機械で掘るようになった経過や、夫婦で力を合わせていた様子、事務所や生活の有様など、実によくわかりました。外に出ると、昭和天皇が戦後行幸された時の記念碑も見ることができました。常磐炭田は一九七六年に閉山したそうです(7) 。
「八人中五人が無料のどかなり」「炭砿の跡に散りぬる桃の花」

 ここで二人のメンバーが別れて湯本駅に向かいました。残った六人は車でシーフードレストラン「メヒコ」へ。メキシコで修行されたという社長さん経営の店の真ん中は温室になっていて、なんとフラミンゴが二十匹ほど飼われていました。ピンクのフラミンゴを見ながら、名物のカニピラフやシーフードスパゲッティなどをゆっくり味わいました。店の前でKさんのカメラで記念撮影となり、一同フラミンゴよろしく片足をあげてパチリ(8) 。
 いよいよ最後の目的地、小名浜港へ向かいます。丁度港祭をやっていたので、ちょっと下車して海産物や海魚の水槽などを見学。「サンマをきれいに食べるコンテスト」など楽しいイベントの最中でした。すぐ先の海辺にそびえるガラスばりの巨大な建物が「アクアマリンふくしま」。二〇〇〇年に開館したこの福島県の施設は環境水族館という名前がついていて、さまざまな視点から海の姿を教えてくれるしくみになっています。小さな魚だけでなくアザラシ・セイウチ・トド・オットセイなど巨大な生き物の水槽もあり、ダイナミックな生態はいくら見ていても飽きませんでした。昨日味わったメヒカリや砂から顔を出しているチンアナゴのユーモラスな姿、そしてシーラカンスの生態調査も印象的でした(9) 。
「遠足の顔水槽に映りけり」

 おみやげを買いに寄ったのは水族館の隣の「いわき・ら・ら・ミュウ」と名づけられた施設で、海産物をあれこれ仕入れました(10) 。広い施設をうろうろしているうちにすこし時間をオーバーしたので、大急ぎでいわき市へ戻ってレンタカーを返却し、すっかりお世話になったTさんに別れを告げて高速バスを手配。帰りの便はかなり込んでいて、予定よりすこし遅くなりましたが、予想をはるかに越える有意義で密度の濃かった旅行の余韻をたっぷり味わいながら、帰路につきました。
「山笑ひバスは高速ひた走る」

(文中の句は全て筆者作です)

【脚注】
1) いわき明星大学図書館 http://www.iwakimu.ac.jp/library/
2) いわき市立図書館 https://library.city.iwaki.fukushima.jp/
3) 古滝屋 http://www.furutakiya.com/
4) スパリゾートハワイアンズ http://www.hawaiians.co.jp/
5) 野口雨情記念湯本温泉童謡館 http://www.douyoukan.com/
6) 白水阿弥陀堂境域(文化遺産オンライン) http://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/190232
7) いわき市石炭・化石館 http://www.sekitankasekikan.or.jp/
8) シーフードレストラン メヒコ http://www.mehico.com/
9) アクアマリンふくしま https://www.aquamarine.or.jp/
10) いわき・ら・ら・ミュウ http://www.lalamew.jp/

初出:『ふぉーらむ』第6号(図書館サポートフォーラム、2009年9月)

■後日譚
 この旅行記は2009年に書いたものですので、ブログ掲載にあたり脚注のリンク先を確認しました。するとアドレスが変更になったところがいくつかありましたが、いずれも健在でした。どの施設も3.11を経てどうされたか気になっていましたので、何よりでした。