Kadoさんのブログ

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カズオ・イシグロの本

f:id:lucyblog:20171223092919j:plain  前々からエッセイなど読んで気になっていたカズオ・イシグロノーベル文学賞をとって一気に話題になりましたが、小説を初めて読んでみました。まず『日の名残り』、そして『遠い山なみの光』。
 1989年に出て英国ブッカー賞受賞の『日の名残り』は、貴族に仕える執事の物語。ヒットラーが台頭して行った時期の英国の空気は、野上弥生子が『迷路』で描いた昭和10年代日本の上流階級の空気に通じるものがあります。控えめながら底力のある筆致に圧倒されました。
 1982年の長編デビュー作『遠い山なみの光』は王立文学協会賞受賞、故郷長崎と移り住んだ英国を舞台に繰り広げられる母と子の物語。過去と現在を行き来する小説の構造は、『日の名残り』で一層読者の心理を惹きつける役割に進化しているのがわかりました。
 いずれの作品もこなれた訳文により一瞬日本文学かと思わせるものの、元は英語で書かれていることに驚愕します。そして小説という文学でしか表せない世界がある事も、読後にしみじみと感じました。国や民族の境を軽々と越境する文学。池澤夏樹が解説で「人間は互いに了解可能だという前提から出発するのが哲学であり、人間はやはりわかりあえないという結論に向うのが文学である。」と書いているのが心に残りました。