Kadoさんのブログ

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『評伝野上弥生子』を読む

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 岩橋邦枝『評伝野上彌生子:迷路を抜けて森へ』(新潮社、2011)を読んだ。野上弥生子(1885-1985)は生涯現役の作家として長篇小説『迷路』(1948)、『秀吉と利休』(1964)、『森』(未完、1985)他多くの作品を残した。同じく小説家の岩橋邦枝(1934-)が著したこの評伝は、野上の作品と日記を縦糸に、彼女の人生に色濃く登場した夏目漱石中勘助、野上豊一郎、田辺元、そして宮本百合子らとの交わりを横糸にして紡いだもので、野上の人生と作品世界を見事な色彩で描き上げている。

『評伝 野上彌生子−迷路を抜けて森へ』目次
第1章 師・夏目漱石―作家になるまで …7
第2章 初恋の人・中勘助―『海神丸』と『真知子』 …39
第3章 夫・野上豊一郎―欧米の旅 …59
第4章 山荘独居―戦時中の日記から …83
第5章 『迷路』―夫豊一郎逝く …105
第6章 老年の恋田辺元と彌生子の往復書簡 …123
第7章 『秀吉と利休』―虚構の力 …151
第8章 友人・宮本百合子―現代女性作家の先駆け …175
終章 『森』―白寿の作家として母親として …189

 野上の作品は実はほとんど読んだことがないのだが、彼女が70歳過ぎに初めて中国を訪れ毛沢東の生家がある延安へ行った話を新聞で読み、興味を持った。正月に教文館でこの本をみつけ、思わず買ったものである。今になってやっと手に取ったが、あまりの面白さに一気に読んでしまった。大分県臼杵から上京し、明治女学校へ入ったこと、夫となった野上豊一郎は法政大学の総長を務め、能楽研究者であったこと、延安へ行ったのはそれが『迷路』の舞台であったからなこと、哲学者田辺元との交友と往復書簡、野上自身の62年分の日記、3人の息子たち、渋沢栄一一族との縁戚関係、そして『森』の舞台が明治女学校であったこと(渋沢栄一は明治女学校を援助していた)など、全て初めて知ることばかりで興味が尽きなかった。
 野上は亡くなる99歳の最後まで書き続けていた。私もあと40年近く本を読み続けていたいと思う。

『評伝 野上彌生子−迷路を抜けて森へ』〔新潮社〕
http://www.shinchosha.co.jp/book/357203/

第22回紫式部文学賞 『評伝 野上彌生子-迷路を抜けて森へ』
http://www.city.uji.kyoto.jp/0000011169.html

野上記念法政大学能楽研究所
http://nohken.ws.hosei.ac.jp/

明治女学校〔渋沢栄一伝記資料 事業一覧〕
http://www.shibusawa.or.jp/SH/denkijigyo/np060.html#J-0838